この度、「大規模数値計算と衛星観測データ同化による地球環境予測研究」に対する研究成果で、科学技術分野の文部科学大臣表彰・若手科学者賞に選出して頂きました。本研究を進めるにあたり、共同研究者の皆様に大変お世話になりました。この場をお借り、厚く御礼申し上げます。

ところで私の研究しているデータ同化分野では最近、「粒子フィルタ」が注目されています。これまでのアンサンブルカルマンフィルタや変分法では、予測・観測誤差のガウス分布性を求めてきましたが、そういった仮定を考慮していないのが特徴的なフィルタです。この粒子フィルタを長年研究してきたPeter Jan van Leeuwen教授が、2019年に出版した粒子フィルタのReview論文は、この様な書き出しから始まります。

 

Data assimilation for geoscience applications, such as weather or ocean prediction, is a slowly maturing field (van Leeuwen et al. 2019; QJRMS).

 

この記述を読んだとき、自分が感じていたモヤモヤを、的確に言語化されたような感覚になりました。その感覚とは、「徐々に成熟を迎えつつある地球科学分野に、未だフロンティアは残っているのか?」という素朴な疑問です。経験科学とは永遠に終わりのない社会構成的な営みですが、どの分野にも創成期・成長期・成熟期が存在する様に思います。この「フロンティアは残されているのか?」という問いは、同年代では、脳科学や制御数理といった様々な分野の研究者から共感を得られます。多くの経験科学分野が、徐々に成熟期を迎えてきているのかもしれません。

私が研究者を志した学生当時は、ただただ問題を解く楽しさを享受していました。プロの研究者になり、自己の好奇心追及に加えて、自身の一連の研究は分野の中でどんな意味を持つのか、科学的意義を考えるようになりました。そして教員になり、分野を活性化させるにはどうすれば良いかを、最近考え始めました。毎年の様に引き起こされる気象・水災害が示す通り、災害予測・緩和研究はプラクティカルにまだまだ必要です。その一方で、若者が或る分野に惹かれる理由は、「なんとなくの魅力」であり、その魅力は分野に残されたフロンティア=大きな問題の有無にかかっているのではないかと思います。

今回栄えある賞を頂けたのは、私自身の力よりも、重要な問題を準備して与えて頂いた、指導者や共同研究者の皆様のお陰だと思います。私自身も、この分野の中での大きな問題・挑戦を見つけ、研究の感動や技術を、次世代の若手研究者に伝えられる教育者に努力・研鑽を重ねたいと思います。

(小槻峻司)

 2022年5月23日 千葉大学での授賞式の様子