いまからサイエンス 撮影終了後の記念写真

2024年7月24日に放送されたBS・テレ東の番組「いまからサイエンス」に出演しました。ムーンショット目標8で進めている気象制御研究は、やはり社会の関心が強く、お声がけ頂いたのだと理解しています。ここで書く話ではないかもしれませんが、家族・両親が喜んでくれまして、少しは恩返しできたかなというのが非常に嬉しいです。とはいえ、この研究は実績ではなく、まだ計画段階です。また、多くのプロジェクトメンバーに支えられた計画・研究であり、私自身の実力ではないことは改めて強調したいと思います。

さて、私自身に対するここまで長い取材は初めてで、正直かなり緊張しました。やってみて思ったのは、「取材・メディアとは適度に付き合わない」という戒め、「取材ばかりに対応する研究者にはならない」という意気込みです。なんか取り上げられている感覚もあり、それなりの自己満足感もありますが、研究者/研究グループとしての実力はあくまでも知の生産であり、つまるところは論文に尽きます。

一方で、必要に応じて取材には対応する必要もある、と思うようになってきて、これは自分自身が学生・研究員の時には分からなかった感覚でした。1つ目の理由は、自分たちの知らない世界に、自分たちの知らない解決策を持っている人がいるかもしれないからです。取り組むIssueが大きい時、発想を自分自身で閉じないことは、非常に大事だと思います。2つ目の理由は、プロジェクトや研究室のメンバーに、我々自身に誇りを持ってもらうためです。「我々なら大丈夫だ」というポジティブな思考は、それだけで解決できる課題を増やします。プロジェクト運営の成功の秘訣は、「楽観的に目標を決め、悲観的に計画し、楽観的に実行する」だと思っています。そのために必要・有益なピエロであれば、今後もその役割は努めます。

最後になりますが、山口様を始めとする番組制作の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りし、改めてお礼申し上げます。気象制御を実現できるように、研鑽を積み、結果で恩返ししたいと思います。

(小槻)

いまからサイエンス 撮影終了後の記念写真
撮影終了後の記念写真


[視聴後記]

記憶のあるうちに、反省も含めて記録を残しておく。

(1) 本質的に加藤さんの関心は引けなかった感触がある。仕事柄なのか、リアクションが大きいからかもしれない。学者としての力不足。自分の話に興味を持ってくれてるので、講義や学会はかなり楽だと再確認。放送版では、研究内容の話は少なかったが、これは小槻の説明が下手だったからです。実力不足です。ちなみに、スタジオでは2h、大学では1h時間程度の撮影を編集して、あの放送になっています。

(2) 編集ではカットされていたが、断言しにくい質問多し。「台風も制御できるのか?」「気候変動でゲリラ豪雨は増えているのか?」など。学者としては、「感覚としてはそうだと思うが、断言できない」という答えしか出来ない。エンタメ側は「言い切って欲しい(こいつはっきりせんなぁ)」、研究者側は「断言できない(いや、そんなに物事簡単じゃないでしょ)」という、よくある構造になる。その辺を放送ではカットして頂いたのは、この番組がちゃんと科学を伝えようという姿勢なのだと思う。

(2) の補足。視聴率に振るなら、部分を取り出して放送することもできる。でも最近、専門家がメディアのExcuseに使われている(伝えたいメッセージは決まっていて、でも責任は専門家に取ってもらう)、という話もよく聞くようになってきたので、自重しているのかもしれない。トレンドなのか、番組のスタンスなのかは不明だが、誠実な対応をしてもらったと思う。

(3) 色々調べて頂いて当日パネルなどを準備して頂いているのだが、専門家としては調査が甘いので安易に「そうですね」と乗れない。例えば、ウェザーニュースさんの資料など。この辺、「気象の変化」を研究者として慎重に扱うか、ビジネスとして大げさに表現するかで、物事への態度が変わる。かといって、相手の土俵になるわけにはいかない。最も恐れねばならないのは、同業者の評価であり、一度失った信頼は取り返すことが出来ない。(テレビで見る政治家や評論家が、堂々と好き勝手なこと言ってるの、ほんとすげぇと思った。仕事が違うんですが。)

(4) 自分で見たことのないものを語ることの怖さ。例えば、「豪雨はここ20年で増えているのか?」など。多分、「そんなこと分かり切ってるでしょ」ということなのだと思うが、学会でそんな基本的な話が出ることはほとんどない。また自分自身で調べたわけじゃないので、しっかりとした記憶もない。うまく言えないが、「社会としてこれくらい分かってるでしょ」ということと、「研究者が実際に研究していること」にギャップがあると感じた。

(5) 制作者側も自転車操業で回している。撮影現場でも人を育てているし、携わる人の数も多いし (スタジオだけで10人弱、モニタ側を入れると30~40人? BSのテレ東でもこんなに人いるのかと思った)、資料については小槻のReviewが入るタイミングもなかった。そんなに世の中は綺麗に出来ていない。

(6) やっぱり扱うのが普遍科学なので、面白さの説明が難しい。どうしても個別・uniquenessの方が簡単な気がしてしまう。偉そうに人に語るが、個別と抽象の行き来が、まだ出来ていないのだろう。これも能力不足。武藤さんのGSMaP講義の様に、普遍な研究をしていてもある具体を示す (数学・物理の力を示す)というのが、ひとつの解決パターンかもしれない。

(7) 難しかった点。話を自分の土俵に持ってこれない。自分が学者として面白いと思う点や協調したい点と、エンタメとして強調したい点が違うのだと思う。なので、どうしてもエンタメという他人の土俵で戦わされている感覚がある。まぁでも、これはメディアに出ることの税金みたいなもんだし、実力さえあれば、話の面白さで自分の土俵に相手を引き込めるはず。これも実力不足。

(8) 良かった点。自分の悪い点として、調子にのってビッグマウスになる時があるが、今回は理性でかなり抑えることが出来たと思う。謙虚に、理性的な対応が出来ていたと思う。

(9) 放送された内容は、正直、想像以上に良かった。撮影現場では、ときに空回り気味に説明することもあった。良い番組に仕上げて頂いたのは、ひとえに番組制作者の力だと思います。心から感謝します。

総じて、良い経験になりました。自分の中では、及第点ではあるが、決して満足のいく撮影ではなかったと思う。それは、気象学や天気予報としての科学の面白さを伝えられていない感触があるからであり、ひとえに学者としての実力不足です。同時に、まだまだ科学コミュニケーションの力は、まだまだ成長させられると思いました。これを糧にして、今後も頑張ります。