環境予測科学について
気候変動が大きな問題となる中、地球の大気・海洋・陸水循環システムを理解する事は科学の大きな使命です。そして経験科学における理解とは、その予測可能性を拡げる事に他なりません。我々の研究室では、気象・水文現象などの地球環境を対象とし、地球観測衛星と各種予測手法を融合する、環境予測研究を推進しています。
具体的には、数週間スケールの天気予報や、100年スケールの気候変動影響による水資源環境の変動を対象とし、その予測を改善・高度化する手法を探求しています。予測には、スーパーコンピュータを駆使した数値シミュレーションや機械学習を用い、予測と観測の融合にはデータ同化に代表される統計数学を駆使します。地球科学・計算科学・統計数学に跨る分野横断研究により、新しい環境予測科学を切り拓きます。
非静力学正20面体格子大気モデルNICAMによる世界の降水予測
全球大気データ同化・天気予報研究と社会への貢献
近年、気候変動の影響と見られる激しい気象変化が地球規模で問題となり、安全な人類生存環境の保全には、天気予報精度の向上が必須となっています。スーパーコンピュータを用いた数値天気予報分野で、データ同化は根本的な役割を果たしており、特に並列計算に適したアンサンブルデータ同化分野は近年、気象学を中心に著しく研究・発展が進んでいます。
私たちはこれまでに、理化学研究所・東京大学・JAXAと共同で全球大気データ同化システムNICAM-LETKFを開発してきました。このシステムは東京大学を中心に開発が進められてきた全球大気モデルNICAMと、高度なアンサンブルデータ同化手法LETKFを結合したシステムであり、多種多様な衛星観測がデータ同化により利用されています。このシステムは2017年から、JAXAのスーパーコンピュータ上でNEXRAという名称で運用されています。
平成30年7月豪雨の事例では、西日本域の記録的な豪雨を、約3.5日前から予測可能であることを示しました。この最新システムを用いた研究推進は、科学成果のみならず、研究成果が社会生活に直結するやりがいのある研究となります。
JAXAのスパコンで準実時間運用されている全球大気データ同化システムNEXRA
平成30年7月豪雨におけるNEXRAによるアンサンブル平均降水予測
統合水資源モデル開発と気候変動の影響評価
淡水供給システムとして重要な陸域水循環に、現在の人間活動は大きな影響を与えています。私たちはこれまで、京都大学と共同で人間活動を組み込んだ統合水資源モデルSiBUCを開発してきました。このモデルは、自然水循環を表現する陸面モデル・河川モデル、人間活動を表現するダム操作モデル・灌漑モデル・作物モデルの5つのサブモデルから構成されています。既存の農業活動のみ、又は、水循環のみに着目したモデル研究と異なり、両者を統合的に扱った世界的にも新しいモデル開発研究となっています。
この中で、衛星観測データはモデルを駆動するための初期値・境界値の入力データとして活用されています。例えば、衛星の観測する植生指標に基づく播種日の推定は、従来物理モデリングが困難であった播種日推定の突破口となりました。また、この統合水資源モデルと全球気候モデルの予測する将来気候変化を元に、100年スケールの水資源変動を予測する研究を進めています。予測に基づき、より適切な社会をデザインするための社会適応研究に繋げていきます。
統合水資源モデルSiBUCで見積もられた気候変動に伴う世界の陸域水循環変化
衛星観測植生指標から推定した世界の主要作物・播種日
研究室の紹介は、千葉大学の卒論配属生向けの資料も分かりやすいかと思います。毎年UPDATEしていますし、力を入れて準備しています。研究の進め方などの情報もあります。