ミッション (Mission): A World Beyond Prediction
我々は、世界と我々の想像を超えた、新たな科学技術と社会を創造する
真理探究の使命: データ同化・AI等のデータサイエンスと、地球科学の境界領域で、現象理解・予測能力改善を追求する。我々自身が価値があると確信できる成果を創出し、それを世に問い、人類の知の深化に貢献する。
技術開発の使命: 我々は、激甚災害に代表される地球環境問題へ貢献するために、教育研究により少しでも社会を良くするために活動する。省庁などの実務機関と連携し、研究成果を具体的に社会に活かす。
教育の使命: 我々は、不確実性の高いVUCA時代を切り拓く次世代リーダーを育成する。データサイエンス・地球科学の境界領域に専門性を有し、なおかつ4Cの素養を身に着けた人材を社会に排出する。
6つの理念 (Core Value)
CV1: Better World (それで我々は世界はよくできるのか?)
We make the world better through our environmental prediction science.
我々の地球環境予測科学で、世界を少しでも良くしていく。
CV2: Better Us (それで我々は成長できるのか?)
We take responsibility for the growth of our members and lab itself.
メンバーの成長に責任を持ち、研究室自身も成長する。
CV3: Curiosity-driven (それは面白いのか?)
We explore new truths and values, and share the excitement of discovery with the world.
新たな真理や価値を探求し、その発見の感動を世界に届ける。
CV4: Productive and Recognized Group (それで成果を残せるのか?)
We build a highly productive research group recognized worldwide.
世界から注目される生産性の高い研究グループをつくる。
CV5: Challenge and Transformation (我々は挑戦・変革を続けているか?)
We continuously keep challenging and transforming to preserve our core values
変わらずに価値を創出し続けるために、挑戦と変革を通して変わり続ける。
CV6: Fostering Next-Generation Leaders (社会の公器としての責務を果たしているか?)
We foster humanity through research and education, cultivating next-generation leaders with high aspirations
研究教育を通して人間性を育み、高い志を持った次世代のリーダーを社会に送り出す。
補足1: 理念とミッションの必要性
小槻が一人で立ち上げた研究室もメンバーが増え、20名を超えるメンバーが研究を進めています。メンバーの数が多くなるにつれ、グループ全体で意志を共有することが困難になってきました。そこで、2025年度に改めて、理念・ミッションを改定しました。
理念・ミッション・ビジョン以下の関係は下記のようになっています。ビジョン以下は、その時々の状況によって変化する一方で、理念・ミッションは長く組織の軸となるものです。特に理念は、研究室で何か大きな判断をする際に、CV1~6を我々自身に問い、一貫した判断をしていくための価値観・判断基準を提供するものです。
研究室などグループを持つと良くわかりますが、人の数が増えれば増えるほど、判断すべき事項が増えてきます。研究者や企業様からの研究室のお誘い、学生やスタッフの希望、社会・省庁・大学からの要請、などです。そして、それらのやった方が良いこと (Nice to Have) のすべては実行できません。研究室のリソースには限界があるからです。数多あるやった方が良いこと、から、自分たちが為すべきことを選別し、そこに集中するための指針が、理念とミッションです。
また、1人の人間が出来る事が限られています。多くのメンバーが、その力を合わせて物事を成し遂げるためには、研究室の方向性 (理念・ミッション) を決めて共有する必要があります。「早くいきたければ一人で行け。遠くに行きたければ、みんなで行け」という言葉があります。私は、独立して自分の研究室を持つとき、自分一人では成し遂げられない事ができる研究室を創ろうと思いました。また、自分達なら、世界と戦える研究室になれると信じています。
ヒンズーに、このような諺があります。
In the first 30 years of your life, you make your habits. (人生の最初の 30 年は、人が習慣を作る)
For the last 30 years of your life, your habits make you. (人生の最後の30年は、習慣が人を創る)
人生を生きる中で、「やった方が善い事」は無限に存在します。人生を左右するのは、「時間はかかるが、やるべき重要な事」に時間を投資できるか否かです。最善の敵は、善なんです。重要な事は、都度判断出来ません。都度判断は、ブレます。そうではなく、「自分の憲法」を持ち、その憲法に照らして判断する習慣を持つ必要があります。我々も、長く発展を続ける研究グループであるため、組織に一貫して流れる判断基準 (習慣) を明確化しています。
補足2: A World Beyond Predictions
2022年に、研究室のロゴを作成しました。その中に、研究室のキャッチコピー "A World Beyond Predictions" が含まれています。
1つ目は、世界の想像 (Predictions) を超える技術・知識を創造し、新しい世界を創っていこう、という意志です。科学技術を創造する源泉として、研究業界・社会から「あんなこと出来るのかぁ」と言ってもらえるような成果を挙げる事が、1つ目のゴールです。
2つ目は、我々自身の想像・限界 (Predictions)を超えよう、という内部動機です。研究の中で、仲間やパートナーと協働することで、自分自身ではたどり着けない理解・技術開発にまで到達して欲しいと思っています。「俺/私はこんなことできたのかぁ」と溜息をつけることが、2つ目のゴールです。

補足3: 次世代リーダーの育成
当初のブレストでは、CV1~5までとしていました。ただ、2024年以降に小槻自身の考えに少し変化があり、CV6: 次世代リーダーの育成、を追記しました。その背景にあるのは、我々はVUCA時代に入っている、という実感です。VUCAとは、Volatility (変動性)・Uncertainty (不確実性)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性) の頭文字を並べたもので、社会環境の複雑性が高まり、将来の予測が困難だったりする、不確実な状態を指します。
その1つの理由は、急速に発展するAIです。特に生成AIの登場で、人に求められる役割が大きく変わり、もう10年後の社会は読めなくなったと思っています。小槻自身も、10年後にも国立大学が今と同じような役割を求められるのか、全く確信がありません。例えば、学部教育 (数学・物理) などはある程度一般化できるので、今と同じ規模の教員が必要とされるか、全く未知数だと思っています。大学教員とて、安定な職業ではなくなるかもしれません。
2つ目の理由は、2020~2025年の間に起こった大きな世界的な変動です。新型コロナウィルス、急激なインフレーション、フェイクニュース、米国の大統領選挙、国内の地方行政・国政選挙、ウクライナ・イスラエルの紛争など、信じられないことが次々に起こりました。世界は大きな変化を見せており、社会はますますと混沌としてきているように思います。
こういったVUCA時代にあり、研究室の1つの使命は、自立して生きていける力を、研究室の若者に身に着けさせることです。それは、目先のAI開発技術や論文執筆方法といったことだけではなく、その実践を通して身に着けるより抽象的・普遍的・ファンダメンタルな力だと思います。そこで、2025年度から研究室では「状況に基づいた指導」ではなく「原則による指導」を導入しました。
そしてより大きな責務は、「自分自身が社会を良くしていくのだ」という高い志を持った次世代のリーダーを育て、社会に輩出していくことにあると考えています。欧米社会には、ノブレス・オブリージュ (高貴なるものの義務) という言葉があり、財力、権力、地位を持つ者が、それに伴う社会的責任を果たすべきだという道徳観が根付いています。研究室に置き換えると、「優秀なものは、その能力を社会を良くするために使わねばならない」という価値観になります。
我々は国立大学で教育研究を推進しており、そこには多大な国民からの税金が導入されています。国立大学は学生からの授業料だけで運営されているわけではなく、その何倍もの国費が投入されています。このことは、より国費の支援が少ない私立大学の学費が、国立大学と大きく異なることからも良くわかります。我々が国民の負託を受けているのは、我々の活動によって、未来の社会が良くなって欲しいという期待にあります。優秀な人材が集まる国立大学において、我々の研究室では、教育研究活動を通してメンバーの人間性を育み、次世代のリーダーとして世界・社会に輩出していきたいと考えています。我々一人一人が社会に対する我が事意識を持たなければ、世界は良くなっていきません。ノブレス・オブリージュ。
参考図書
- スティーヴン・コヴィー「7つの習慣」
- ほぼ日刊イトイ新聞「岩田聡はこんなことを話していた」
- 稲盛和夫「京セラフィロソフィ」
- 宮嶋健人「株式会社・メディアインパクトのミッション・ステートメント