研究室の立ち上げから、苦労してきたことです。ほとんどの内容は、実際に苦労した事例集から考えてきたときです。

あまり研究室運営に関するノウハウはなかったので、ベンチャー企業の立ち上げなど、ビジネス分野から多くのことを学びました。研究を想定して書きますが、多分ビジネスでも殆ど成り立つ話です。

問題に対処するのではなく、仕組みで対処する

研究室運営では、とにかく時間の欠乏に悩まされる。この様な状況で研究室を運営するのに大事な観点は、「仕組み創り」に尽きる。

日々の業務は、「緊急 or 緊急ではない」×「重要 or 重要ではない」の2×2マトリクスに分解できる。仕組み創りの本質は、「緊急ではないが重要」であり、仕組みにより将来起こる「緊急かつ重要な問題」を減らすことです。教員になると、想定外の問題は頻繁に起きるが、「問題に対処するのではなく、仕組みに対処する」。仕組みを創って育てねば、未来の問題は減らないからである。

例えば、学生からの論文初稿が期待通りのクオリティで上がってくることは無い。そうであれば、「論文を直す」のではなく、「パラグラフライティングのテンプレートを作成する」のが仕組み創りである。また構成員の多い研究室では、最低限のルールを定めていくことも有効である。ルールを明文化して示すことで、メンバーへの平等性を担保でき、また教員の判断を減らすことができる。

具体的には、研究室wikiの作成 (着任/退職手続き、サーバーの使い方、出張手続きetc)、論文やPPTのテンプレート作成、研究室配属直後の演習課題作成など。最初は苦しいのだが、この辺りの整備が進んでくると、仕事はグンと楽になってくる。

リーダーの仕事の多くはお膳立て/リスク回避/問題処理

「先生なんに時間使ってるんですか?」と言われることもあるが、これ。逆に、ここの手を抜くと、トラブル/問題 (緊急かつ重要な仕事) に追われ続けることになる。実際、1つトラブルが起こると、その対処膨大な時間が消費されてしまう (報告書、上長への報告、予算元への説明などなど)。

リーダーは自分だけの成果ではなくて、グループの成果を挙げて行かないといけない。成果を挙げるってのは、「物事を進めること」と「起こりえるトラブルを未然に防ぐこと」である。研究であれば、学生/研究員の研究が行き詰らないの様に、それなりに先回りしてサーベイしておく。ちゃんと成功の仮説のある研究を進めてもらう。業務であっても、ちょっと手を入れるだけでも物事は進みやすくなる。誰に話を通すと物事が進むとか、この人はこの辺気にするからトラブルにならないようにする、とか。

あとは、構成員の人数が増えてくると、「全員が元気バリバリHappy!」という状況にはならない。人間30歳を超えてくると、プライベートな状況、親・祖父母世代の話、体調などなど、ほとんど全員が、それぞれのIssueを抱えながら生きている。もしPIになったとき、そういった話が聞こえてこないとしたら、かなり危ない。そんな訳はない。逆に、もし自分がPIになったとき、そういったことを教えてくれるメンバーには感謝しないといけない。本来、そういったことは上司に伝えなくてもいい。それでも教えてくれるのは、仕事に責任感を持ってくれているからである。

上手く回ってるときは、何かリスクが潜んでいる。

経験上。なので、「今、研究室良い感じだなぁ」と思ったら要注意。おそらく、責任感のある誰かに負荷が強くかかっていて、それが顕在化していないだけ。

ということで、「今、良い感じ」と思ったときこそ、周りに目を配った方が良い。

立場は問題解決に使える

「先生」の立場を使うと、物事を進めやすくなることが多い。大学であれば、事務との折衝や、企業との交渉など。これにより、学生/研究員/スタッフの仕事がちゃんと進む。

リーダーはシンプルであった方が良い

メンバーに気持ちの忖度をさせない。好き嫌いで物事を判断しない。

一貫性がある方がメンバーは安心する。一方で、その場その場の機嫌や状況で言ってることがコロコロ変わると、メンバーが困る。

自分の発言/行動に一貫性を持たせるには、そんなに複雑な思考をするよりも、シンプルに物事を考えた方が自分も楽だと思います。

ルールを定める

ルールは権威のために持つのではなく、平等性 (フェアネス)と判断のために持つ。

まず、「ルール」と聞くと拘束的で嫌な気持ちがするかもしれないが、それは誤解だと思う。世の中には、「やってはいけないことを定めるネガティブリスト」と、「やっていいことを定めるポジティブリスト」がある。ポジティブリストは、例えば自衛隊の行動規定のようなもので、「この状況ではこういう行動が許される」といった規定。一方で、ネガティブリストは「これはやってはいけませんよ」ということだけ規定するルール。

研究室で定めるのは、「ネガティブリスト」である。言葉の印象とは裏腹に、ネガティブリストは「やってはいけないこと・最低限すべき事だけを定めて、後は自由にやってください」というルールです。個々のメンバーの自立性・クリエイティビティ・発想を信じるのがネガティブリストです。

出張、予算処理、論文執筆もろもろ。ルールを定めることで、リーダー以外でもルールに照らして物事を判断できるようになります。ルールを定めるってのは、フェアネスを高めることが出来ます。一方で、ルールの無い組織は、リーダーの好き嫌いで判断されてしまいます。結果、メンバーに忖度を強いることになります。不幸です。

例外はOKしない

ルールを定めると、「この場合だけ特別に、これを許してくれませんか?」みたいな事を聞かれることがあります。基本的には、例外には対処せず、ルール自体を変えて対処したほうが良いです。

というのも、個別的な例外が許されると、各メンバーが「僕もこれを許して欲しい」と言い出すので、結果的にルールが形骸化します。ルールが形骸化すると、結局リーダーが疲弊します。

巧遅は拙速に如かず

孫氏より。まさにこの通りで、「あとでちゃんと調べて/考えて返答します」が許されない。時間がないから、この調べる/考える時間が確保できない。結果的に、その場その場で判断する必要があります。

例えば、今の研究室では、研究員/学生のMTGを2週に1度程度でやっています。大体15人くらいの研究を見る必要があります。その場その場で「絶対これが正解でしょ」という判断に至らないことも、当然あります。だけど、そこで「後で考えよう」をやっちゃうと、完全にスタックします。結果的に、「その場その場で判断する」しかないんですが、これは経験上、慣れればできます (最初はしんどいが)。

研究員/学生の立場からすると、「前と言ってることが違う」と思うことがあるかもしれませんが、多くの場合原因は「巧遅は拙速に如かず」に起因します。その場その場で考えて判断するので、しょうがないです。自分の言葉も覚えていません。ただ、あまりに行き当たりばったりだと、相手も困ります。なので、シンプルに自分のルールを持っておくべきなんです。シンプルなルールに沿って判断すれば、さほど判断はぶれません。