背景

  • アカデミックとして生きることについて、学生からは良く見えないと思います。小槻が知る範囲のことについて、実態・経験を踏まえて共有したいと思います。
  • 生々しい、安定性や給与などについても紹介します。
  • 研究室メンバーは、もっと知りたいことがあれば、大学で質問してください。
  • 年齢については、ストーレートに行けた場合を想定しています (博士進学時24歳)

基本的な考え方

  • 博士には、勧められて進学するものではない。自分で決めるもの。
  • 先生は、学生に博士進学を勧めるべきではない、という雰囲気が、アカデミック全般にあります。
    • というのも、安定性・収入面では、一般就職に、100% 勝てないからです。
  • だから、「自分の意志で決めないと」後悔します。
    • 2005年頃、政府が博士学生を増やそう!とやって、先生が博士進学を勧めました。
    • その結果、大量の職余りがでました。(当時はポスドクが多くなかった)
    • 特に45歳以上の教員は、その時代を見てきたので、学生に進学を勧めるが怖くなっています。
    • 「高学歴ワーキングプア」という言葉でググると、この辺の情報がいろいろ出てきます。

博士課程 = 博士後期課程 (通常3年; 24-27歳)

  • 基本的には
    • 学生です。授業料も発生します。
    • 英語の論文を最低1~2本は書けないと、博士は取れません。3年やれば必ず取れるものではありません。
      • ここに関しては、完全に実力主義です。泣いても、無理なものは無理です。
      • 3年で取れずに、5~6年かかる方もいらっしゃいます。
      • 小槻的には、ちゃんと3年で取らせられるか否かは、先生の指導力の問題だと思っています。
        • まだ博士学生を持った経験がないけど、普通に先生が指導すれば、3年で取れるものだと思います。
  • 収入面からの待遇
    • Best Path「学術振興会 特別研究員」に採択される
      • 応募: 修士2年の5月頃に応募。
      • 採択されると、博士3年間、下記の補助が出る (DC1)
        • 年間100万円の研究費がつく
        • 月20万円 x 12か月の奨学給付金 (=給与) が付与される
      • 採択されないと
        • 博士1年5月に、また応募する
        • 採択されると、次年度から2年間DC1と同じ待遇が与えられる
      • 採択に関する情報
        • (0) 採択率
        • (1) 主著英語論文があると、ものすごく強い。日本語でも強い。
          • なので、博士進学を考える学生は、修士で論文を書きましょう。
        • (2) 提案書 (=研究計画書) は、頑張って書かないといけない
          • 添削します。小槻の過去の提案書も共有します。
          • また、研究室には、学振DCに採択されている先輩もいます。アドバイスをもらいましょう。
    • Second Path: JSTになにかのプログラムがあるらしい
      • 調査中
    • Third Path: 千葉大学の博士支援プログラム
      • 月17万円。採択率は、おそらく日本人学生だと80%を超える。
        • まだ、始まったばかりなので、あんまり統計情報がない。
        • ただ、周りで落ちたという話は聞いたことがない (as of 2023/03/06)
      • 情報: https://imo.chiba-u.jp/support/innovation/index.html
      • ただし、ずっと続くかは、正直不明。
      • 大学も、政府から予算を取ってきて、この制度を運用しているため。
    • Fourth Path: 千葉大学の先進科学プログラム
      • こちらも奨学金が出ます。修士1年のタイミングで応募。
    • Third Path: 奨学金 + リサーチアシスタントの併用
      • 日本学術振興会の奨学金
        • 月10万円。博士学生はほぼ取れる、のかな。論文を書けば、半額 or 全額免除になる。
          • 小槻の周りでは、取れなかった/免除されなかった、という例は知らない。
      • 大学のリサーチアシスタント制度
        • 月5万円。予算と枠があるため、確定ではない。
    • Optional: 技術補佐員
      • 先生の予算で雇用できる場合があります。
      • 予算の状況によるので、小槻に質問してください。
      • 最近は、博士 or 博士進学予定学生の支援を後押しする制度も多いので、サポートできる場合が多いと思います。

博士取得後のキャリア

一般には、下記の経路をたどります (https://www.mext.go.jp/content/1418048_005.pdf)

  • (1) ポストドクター (通称ポスドク ; 任期付き)
    • 先生の外部資金プロジェクト研究の実行部隊
    • 年収: 概ね400-600万円 (継続年数、大学や研究所の機関によって異なります)
    • 特任助教、特任研究員、特定研究員、など、呼称は様々。
    • 特任とは、任期付きの意。
    • 多くの場合、学振PDの給与 (月36万?) を目安に定められている。
  • (2) テニュアトラック助教 (任期付き)
    • 大学や研究所でパーマネントを得るための試験期間
    • この期間に論文成果を挙げられるか見られる
    • 成果を挙げると、任期なし助教になる (30~35歳?)
    • 収入は、上のポスドクと同程度?(良く知らない)
  • (3) 准教授 (700~850万/yr; 任期なし) 35~45歳くらい。平均40歳?
  • (4) 教授 (900万~/yr ; 任期なし) 45~55歳。平均50歳?
  • 備考
    • 上の給与は、国立大学のパターン。
      • ネット上に正確な統計はあると思うので、気になる人は自分で調べましょう。
    • 私立大学は、概ね、1.5倍ではないか?
      • その分、私立大学では研究する時間は殆どなくなる。1学年10人とかザラ。
    • 上の年齢は、あくまでも参考指数。分野によっても違うし、人によっても違い過ぎる。
      • 傾向として、理論系の方が、実力主義が徹底されている。
        • 数学や情報では、30歳で准教授、35歳で教授、とかって話もまぁまぁ聞く。
      • 一方、権威がものを言う分野は、年齢の果たす役割が大きい
        • お医者さんが最たる例。45前に教授は、あんまり効かない。
        • 権威がものをいう分野 = 学会でみんながスーツ着てる分野 で概ね合ってる
          • 純粋数学の学会は、Tシャツ&短パンとかでやってるらしい(出たことないけど)。
  • 他の博士取得後パターン
    • (1) 企業に就職・公務員になる
    • (2) 海外の大学/研究機関にポスドクで行く
      • 給与は、国によるとしか言えない

Q&A

  • Q: どのタイミングで安定 (パーマネント職) に付けますか?
    • A: 分からないが、35~40歳くらいだと、やったねって感じ。
    • A: 実力もあるが、時の運もある。人事ばっかりは、誰にも読めない。
  • Q: 博士を出てから、普通の一般就職ができますか?
    • A: できると思う。どこにも就職できない、ということはあまり聞かない。
      • もし難しい場合は、博士ではなく、本人のコミュニケーションなどが原因であることが多い
    • A. 多くの学生は、「博士に進学 = アカデミックに残る」という決意をもって博士進学する
      • 正直、待遇や安定性では、一般就職には勝てない。
      • 給与と安定性というリスクを払っても進学するのは、アカデミックに残りたい人がほとんど。
  • Q: ポスドクって、なんでこんなに多いんですか?
    • A. 国が方針を変えたため。大体下記の辺りが理由ではないかと思う。
      • (1) 人は危機感がないと働かない説 (性悪説)
        • その昔 (1990くらい?)、直ぐに助教に採用していた時代があった。
        • 助教になると、パタッと仕事をしなくなる教員が大量発生。
        • なので、パーマネントになる前に、しっかり見極める制度が必要と考えた。
      • (2) 政府が選択と集中を進めたから
        • 1990くらいまでは、比較的裾野を広げて、研究予算を大学・研究期間に配布していた (運営費交付金)
          • 運営費交付金 = 安定的な財源
        • しかし政府は、ある程度の競争原理は必要と考えた
          • 運営費交付金 ==> 競争的外部資金 (時限付き)に予算を変えた
        • この競争的外部資金(時限付き)で雇用されるのが、ポスドク
          • 予算が時限付き (多くは3~5年) なので、ポスドクの雇用契約も任期付き
          • パーマネントの助教ポストをなくしている大学も多い。
        • 余談: 安定的な運営費交付金が減ってるので、大学は運営に四苦八苦してる
  • Q: ポスドク (任期付き雇用)とは不安定なんですか?
    • A. あまり、そうは思わない。
      • (1) 任期付きであるが、まじめに仕事をしていて、切られることはない
      • (2) ポスドクという仕事が、無くなることはない
        • 業界にもよるが、災害・地球科学・情報にかかわる分野は、慢性的にポスドク不足。
        • いつもどこかで募集されている。
        • なので、職にあぶれるってことは、人間性に問題がなければ聞いたことがない。
        • 逆にあぶれる可能性があるのは、数学と純粋物理
          • もっとも優秀な人が行く分野が、もっとも実学から遠いので、予算が付きにくい
          • なので、天才の墓場、と呼ばれたりもする。
      • (3) ポスドクという身分の捉え方
        • 独立する前の、修業期間とみることもできる。
        • 複数の研究室を渡り歩くことも、ワザが増えるので、研究者としては必ずプラスである。
      • (4) ただし、
        • 行先の先生は選んだ方が良い。ポスドクをちゃんと教育してくれる人もいれば、ただ放置する人もいる。
        • この辺は、最大限相談に乗ります。
  • Q: 僕は研究者・博士として生きていけますか?
    • A. 誰にも分からない。他人に答えを求める類のものではない。
      • 最後は、「もっと研究したい」とか「研究が楽しい」とか、そういう思いが根底にあってほしい
      • というのも、研究者の人生は、山あり谷ありである。好き、が原動力にないと、どこかで病む。
      • 絶対やめとけってときは、ちゃんと伝えます。
  • Q: 博士進学後、病む人も多いと聞きますが?
    • A. 事実として、多いと思う。いくつか理由があると思われる。
      • (1) 同級生はもう働いてるのに、自分はまだ学生、という焦燥
      • (2) 論文を書けないと操業できない、という危機感
      • (3) 目に飛び込んでいる、うまくいってる (学会でチヤホヤされている) 同級生
    • A. そして、博士課程を中退して、就職する方がそれなりにいるのも、事実です。
      • こちらによると、博士取得後の進路(工学)は (https://www.mext.go.jp/content/1422060_016.pdf)
        • 就職率: 80% 後半
          • 大学などの教員18 %くらい
          • ポスドク・技術者: 75%くらい
        • ということで、職にあぶれる、ということはかなり少なそうです。
  • Q: 小槻さんはここまで見えてて進学しましたか?
    • A. 良く知りませんでした。最悪、高知に帰って漁師 or 塾講師になろうと思っていました。
      • 今は安定してますが、非正規雇用のポスドクのときから、進学を後悔したことはあんまりないです。
        • 心が折れそうになったことも、あるっちゃあります。2~3回、転職は考えました。
        • ただそれは、研究者だからではなく、どこに就職しても起こったことだと思います。
  • Q: 人生もう一回やり直せるなら、博士進学しますか?
    • A. 分からない。これは研究者が嫌だからという意味ではなく、単純に他の職種にも就いてみたかったから。
  • Q: パーマネント取得に大事な要素は何ですか?
    • A. 助教~准教授くらいまでは、実力です。
      • 論文数と外部資金獲得です
      • もちろん、人柄も見られます。1人採用するときには、その周りの人にかなりその人物像を聞きこみます。敵を作らないのは、大事です。(会社と一緒)
    • A. 准教授~教授は、実力というより、時の運です。
      • 准教授・教授の人事は、「その組織が、これから何を推していくか?」の意識の表れです。時代によって、大事な研究も変わります。
      • なので、こればっかりは、時の運です。とはいえ、ちゃんと仕事をしていれば、どこかで誰かは、必ず見ています。