
2023.3.06
小槻さん通信
背景
- アカデミックとして生きることについて、学生からは良く見えないと思います。小槻が知る範囲のことについて、実態・経験を踏まえて共有したいと思います。
- 生々しい、安定性や給与などについても紹介します。
- 研究室メンバーは、もっと知りたいことがあれば、大学で質問してください。
- 年齢については、ストーレートに行けた場合を想定しています (博士進学時24歳)
基本的な考え方
- 博士には、勧められて進学するものではない。自分で決めるもの。
- 先生は、学生に博士進学を勧めるべきではない、という雰囲気が、アカデミック全般にあります。
- というのも、安定性・収入面では、一般就職に、100% 勝てないからです。
- だから、「自分の意志で決めないと」後悔します。
- 2005年頃、政府が博士学生を増やそう!とやって、先生が博士進学を勧めました。
- その結果、大量の職余りがでました。(当時はポスドクが多くなかった)
- 特に45歳以上の教員は、その時代を見てきたので、学生に進学を勧めるが怖くなっています。
- 「高学歴ワーキングプア」という言葉でググると、この辺の情報がいろいろ出てきます。
博士課程 = 博士後期課程 (通常3年; 24-27歳)
- 基本的には
- 学生です。授業料も発生します。
- 英語の論文を最低1~2本は書けないと、博士は取れません。3年やれば必ず取れるものではありません。
- ここに関しては、完全に実力主義です。泣いても、無理なものは無理です。
- 3年で取れずに、5~6年かかる方もいらっしゃいます。
- 小槻的には、ちゃんと3年で取らせられるか否かは、先生の指導力の問題だと思っています。
- まだ博士学生を持った経験がないけど、普通に先生が指導すれば、3年で取れるものだと思います。
- 収入面からの待遇
- Best Path「学術振興会 特別研究員」に採択される
- 応募: 修士2年の5月頃に応募。
- 採択されると、博士3年間、下記の補助が出る (DC1)
- 年間100万円の研究費がつく
- 月20万円 x 12か月の奨学給付金 (=給与) が付与される
- 採択されないと
- 博士1年5月に、また応募する
- 採択されると、次年度から2年間DC1と同じ待遇が与えられる
- 採択に関する情報
- (0) 採択率
- (1) 主著英語論文があると、ものすごく強い。日本語でも強い。
- なので、博士進学を考える学生は、修士で論文を書きましょう。
- (2) 提案書 (=研究計画書) は、頑張って書かないといけない
- 添削します。小槻の過去の提案書も共有します。
- また、研究室には、学振DCに採択されている先輩もいます。アドバイスをもらいましょう。
- Second Path: JSTになにかのプログラムがあるらしい
- 調査中
- Third Path: 千葉大学の博士支援プログラム
- 月17万円。採択率は、おそらく日本人学生だと80%を超える。
- まだ、始まったばかりなので、あんまり統計情報がない。
- ただ、周りで落ちたという話は聞いたことがない (as of 2023/03/06)
- 情報: https://imo.chiba-u.jp/support/innovation/index.html
- ただし、ずっと続くかは、正直不明。
- 大学も、政府から予算を取ってきて、この制度を運用しているため。
- 月17万円。採択率は、おそらく日本人学生だと80%を超える。
- Fourth Path: 千葉大学の先進科学プログラム
- こちらも奨学金が出ます。修士1年のタイミングで応募。
- Third Path: 奨学金 + リサーチアシスタントの併用
- 日本学術振興会の奨学金
- 月10万円。博士学生はほぼ取れる、のかな。論文を書けば、半額 or 全額免除になる。
- 小槻の周りでは、取れなかった/免除されなかった、という例は知らない。
- 月10万円。博士学生はほぼ取れる、のかな。論文を書けば、半額 or 全額免除になる。
- 大学のリサーチアシスタント制度
- 月5万円。予算と枠があるため、確定ではない。
- 日本学術振興会の奨学金
- Optional: 技術補佐員
- 先生の予算で雇用できる場合があります。
- 予算の状況によるので、小槻に質問してください。
- 最近は、博士 or 博士進学予定学生の支援を後押しする制度も多いので、サポートできる場合が多いと思います。
- Best Path「学術振興会 特別研究員」に採択される
博士取得後のキャリア
一般には、下記の経路をたどります (https://www.mext.go.jp/content/1418048_005.pdf)
- (1) ポストドクター (通称ポスドク ; 任期付き)
- 先生の外部資金プロジェクト研究の実行部隊
- 年収: 概ね400-600万円 (継続年数、大学や研究所の機関によって異なります)
- 特任助教、特任研究員、特定研究員、など、呼称は様々。
- 特任とは、任期付きの意。
- 多くの場合、学振PDの給与 (月36万?) を目安に定められている。
- (2) テニュアトラック助教 (任期付き)
- 大学や研究所でパーマネントを得るための試験期間
- この期間に論文成果を挙げられるか見られる
- 成果を挙げると、任期なし助教になる (30~35歳?)
- 収入は、上のポスドクと同程度?(良く知らない)
- (3) 准教授 (700~850万/yr; 任期なし) 35~45歳くらい。平均40歳?
- (4) 教授 (900万~/yr ; 任期なし) 45~55歳。平均50歳?
- 備考
- 上の給与は、国立大学のパターン。
- ネット上に正確な統計はあると思うので、気になる人は自分で調べましょう。
- 私立大学は、概ね、1.5倍ではないか?
- その分、私立大学では研究する時間は殆どなくなる。1学年10人とかザラ。
- 上の年齢は、あくまでも参考指数。分野によっても違うし、人によっても違い過ぎる。
- 傾向として、理論系の方が、実力主義が徹底されている。
- 数学や情報では、30歳で准教授、35歳で教授、とかって話もまぁまぁ聞く。
- 一方、権威がものを言う分野は、年齢の果たす役割が大きい
- お医者さんが最たる例。45前に教授は、あんまり効かない。
- 権威がものをいう分野 = 学会でみんながスーツ着てる分野 で概ね合ってる
- 純粋数学の学会は、Tシャツ&短パンとかでやってるらしい(出たことないけど)。
- 傾向として、理論系の方が、実力主義が徹底されている。
- 上の給与は、国立大学のパターン。
- 他の博士取得後パターン
- (1) 企業に就職・公務員になる
- (2) 海外の大学/研究機関にポスドクで行く
- 給与は、国によるとしか言えない
Q&A
- Q: どのタイミングで安定 (パーマネント職) に付けますか?
- A: 分からないが、35~40歳くらいだと、やったねって感じ。
- A: 実力もあるが、時の運もある。人事ばっかりは、誰にも読めない。
- Q: 博士を出てから、普通の一般就職ができますか?
- A: できると思う。どこにも就職できない、ということはあまり聞かない。
- もし難しい場合は、博士ではなく、本人のコミュニケーションなどが原因であることが多い
- A. 多くの学生は、「博士に進学 = アカデミックに残る」という決意をもって博士進学する
- 正直、待遇や安定性では、一般就職には勝てない。
- 給与と安定性というリスクを払っても進学するのは、アカデミックに残りたい人がほとんど。
- A: できると思う。どこにも就職できない、ということはあまり聞かない。
- Q: ポスドクって、なんでこんなに多いんですか?
- A. 国が方針を変えたため。大体下記の辺りが理由ではないかと思う。
- (1) 人は危機感がないと働かない説 (性悪説)
- その昔 (1990くらい?)、直ぐに助教に採用していた時代があった。
- 助教になると、パタッと仕事をしなくなる教員が大量発生。
- なので、パーマネントになる前に、しっかり見極める制度が必要と考えた。
- (2) 政府が選択と集中を進めたから
- 1990くらいまでは、比較的裾野を広げて、研究予算を大学・研究期間に配布していた (運営費交付金)
- 運営費交付金 = 安定的な財源
- しかし政府は、ある程度の競争原理は必要と考えた
- 運営費交付金 ==> 競争的外部資金 (時限付き)に予算を変えた
- この競争的外部資金(時限付き)で雇用されるのが、ポスドク
- 予算が時限付き (多くは3~5年) なので、ポスドクの雇用契約も任期付き
- パーマネントの助教ポストをなくしている大学も多い。
- 余談: 安定的な運営費交付金が減ってるので、大学は運営に四苦八苦してる
- 1990くらいまでは、比較的裾野を広げて、研究予算を大学・研究期間に配布していた (運営費交付金)
- (1) 人は危機感がないと働かない説 (性悪説)
- A. 国が方針を変えたため。大体下記の辺りが理由ではないかと思う。
- Q: ポスドク (任期付き雇用)とは不安定なんですか?
- A. あまり、そうは思わない。
- (1) 任期付きであるが、まじめに仕事をしていて、切られることはない
- (2) ポスドクという仕事が、無くなることはない
- 業界にもよるが、災害・地球科学・情報にかかわる分野は、慢性的にポスドク不足。
- いつもどこかで募集されている。
- 研究者むけの求人サイト。いつも求人いっぱい。
- なので、職にあぶれるってことは、人間性に問題がなければ聞いたことがない。
- 逆にあぶれる可能性があるのは、数学と純粋物理
- もっとも優秀な人が行く分野が、もっとも実学から遠いので、予算が付きにくい
- なので、天才の墓場、と呼ばれたりもする。
- (3) ポスドクという身分の捉え方
- 独立する前の、修業期間とみることもできる。
- 複数の研究室を渡り歩くことも、ワザが増えるので、研究者としては必ずプラスである。
- (4) ただし、
- 行先の先生は選んだ方が良い。ポスドクをちゃんと教育してくれる人もいれば、ただ放置する人もいる。
- この辺は、最大限相談に乗ります。
- A. あまり、そうは思わない。
- Q: 僕は研究者・博士として生きていけますか?
- A. 誰にも分からない。他人に答えを求める類のものではない。
- 最後は、「もっと研究したい」とか「研究が楽しい」とか、そういう思いが根底にあってほしい
- というのも、研究者の人生は、山あり谷ありである。好き、が原動力にないと、どこかで病む。
- 絶対やめとけってときは、ちゃんと伝えます。
- A. 誰にも分からない。他人に答えを求める類のものではない。
- Q: 博士進学後、病む人も多いと聞きますが?
- A. 事実として、多いと思う。いくつか理由があると思われる。
- (1) 同級生はもう働いてるのに、自分はまだ学生、という焦燥
- (2) 論文を書けないと操業できない、という危機感
- (3) 目に飛び込んでいる、うまくいってる (学会でチヤホヤされている) 同級生
- A. そして、博士課程を中退して、就職する方がそれなりにいるのも、事実です。
- こちらによると、博士取得後の進路(工学)は (https://www.mext.go.jp/content/1422060_016.pdf)
- 就職率: 80% 後半
- 大学などの教員18 %くらい
- ポスドク・技術者: 75%くらい
- ということで、職にあぶれる、ということはかなり少なそうです。
- 就職率: 80% 後半
- こちらによると、博士取得後の進路(工学)は (https://www.mext.go.jp/content/1422060_016.pdf)
- A. 事実として、多いと思う。いくつか理由があると思われる。
- Q: 小槻さんはここまで見えてて進学しましたか?
- A. 良く知りませんでした。最悪、高知に帰って漁師 or 塾講師になろうと思っていました。
- 今は安定してますが、非正規雇用のポスドクのときから、進学を後悔したことはあんまりないです。
- 心が折れそうになったことも、あるっちゃあります。2~3回、転職は考えました。
- ただそれは、研究者だからではなく、どこに就職しても起こったことだと思います。
- 今は安定してますが、非正規雇用のポスドクのときから、進学を後悔したことはあんまりないです。
- A. 良く知りませんでした。最悪、高知に帰って漁師 or 塾講師になろうと思っていました。
- Q: 人生もう一回やり直せるなら、博士進学しますか?
- A. 分からない。これは研究者が嫌だからという意味ではなく、単純に他の職種にも就いてみたかったから。
- Q: パーマネント取得に大事な要素は何ですか?
- A. 助教~准教授くらいまでは、実力です。
- 論文数と外部資金獲得です
- もちろん、人柄も見られます。1人採用するときには、その周りの人にかなりその人物像を聞きこみます。敵を作らないのは、大事です。(会社と一緒)
- A. 准教授~教授は、実力というより、時の運です。
- 准教授・教授の人事は、「その組織が、これから何を推していくか?」の意識の表れです。時代によって、大事な研究も変わります。
- なので、こればっかりは、時の運です。とはいえ、ちゃんと仕事をしていれば、どこかで誰かは、必ず見ています。
- A. 助教~准教授くらいまでは、実力です。