自分自身の研究発表について

(1) 「ロジカル・プレゼンテーション」をする
学会発表は、物語 (自分の研究の試行錯誤) を話す場ではありません。プレゼンの場です。「自分の発表のメッセージ: Take Home Message (THM)」を決めて、THMを伝えるためにロジックを組みましょう。

プレゼンは、「自分と、相手の情報ギャップを埋める」事です。その際に、相手の知識や経験など、相手にどの程度の知識を前提として良いか見極める事は、基本にして奥義です。結局プレゼンを上手くなるには、「この発表で相手は分かるだろうか?」という謙虚な姿勢で考え続けるしかありません。

(2) 質問を使って、議論を深める
学会発表は、研究と論文出版の途中地点です。それなりに結果が出てきた段階で、「他人の目から」研究を見てもらって、フィードバックを受ける場所です。「こんな視点が欠けているのでは?」「原因としてこんなことは考えられないか?」「これって、もしかしてあの研究と似ている?」などなど。

論文を書くときに、「Discussion」というセクションがありますが、これらの指摘は、このDiscussionを深めるのに大変役に立ちます。貰ったコメントは真摯に受け止め、研究を深めると良いと思います。また、質問してくれた人にセッションの後で質問にいくと、もっと色々教えてくれる場合が多いです。

他の研究者の研究発表について

(1) 参加したら、質問する気で聴く
「なんとなく聞く」のと、「質問する気で聴く」のでは、入ってくる情報量が大きく異なります。これは普段の研究室ゼミでも同じだと思います。基本的に、「outputを意識してinputする」と、情報の質が大きく変わります。自分が博士1年の時に、佐山先生や芳村先生が最前列で質問しているのを見て、彼らに倣おうと思いました。偉大な先生ほど、ちゃんと学会に参加してます。

(2) 「自分だったらどうやるか?」を考えながら聴く
良い質問をするコツは、仮説演繹をする事だと思います。単純に聞いていると、「この図はどんな意味ですか?」みたいな質問になってしまいます。「自分だったら、この問題にどんな解析するだろう?」「この方法だったら、きっとこんな結果になるな」と仮説演繹をしていると、Predicionの能力が鍛えられます。兎にも角にも、この「仮説演繹」を繰り返すのが成長の一番の近道で、学会発表はとても良い機会です。

(3) 良い研究者に学ぶ
学会や研究会では、著名な研究者の発表に触れ合える機会が多いです。どんな図を使って、どんな発表をするのか、など、盗める技術は沢山あります。最初は倣うのが、成長の一番の近道です。見ていると、良い研究者は、スライドや図も少なく、多くのimplicationsを引き出せる実験をデザインするのが優れていると気が付きます。

気を付けた方が良い事

(1) どこまで情報を公開するか
超天才でなければ、「今自分が考えているアイデアは、世界で5人は考えている」と思った方が良いです。少なくとも僕はそう思っています。「あれは私のアイデア」といった話は良く聞きますが、実態は、「あ、彼/彼女も研究してる、早く論文書かねば!」というケースが多いと思います。アカデミアにおいては、いくら学会で発表しても先住権は主張できません。論文を書いてナンボです。悩むのであれば、情報は出さない方が賢明です。

その上で、本当に優れた研究者は、アイデアを惜しみなく出してくれます (将棋の羽生さんみたいに)。もしかしたら、彼らはもっと先に/深く進んでいて、彼らにとっては些細なアイデアが、僕には凄いアイデアに見えているのかも知れないです。だとしたら、完敗です。