本稿の意図について
卒論・修論は、初めて書くので「教員にとっての当たり前」が、「学生にとっての当たり前」ではない。ということで、当たり前に求められることを書いていきます。
これまでの論文作成/アドバイス/チェックで気になることがあれば、共有してください。リストに追記していきます。
よくある指摘は、赤字で書いています。
チェックリストの前に
- 論文は、Scientific Writing の構文に則っているかが大事です。
- 論文を書き始める前に、一度こちらの論文作成・テンプレート (link)を埋めてみて、論文の大きな枠組みを確認しましょう。
- 実際に、その方が書き進めるのも楽なはずです。
チェックリスト (体裁)
- 句読点は一貫しているか (、。 or ,.)。
- 言葉遣いは一貫しているか? (です。ます。 or である。)
- 文字の大きさは一貫しているか?
- 英語のフォントは一貫しているか?
- 時制は一貫しているか?(現在系・過去形の使い分け)
- 本文で引用された研究が、引用文献に含まれているか?
- 本文で引用されていない論文が、引用文献に含まれていないか?
- 引用文献は体裁が整えられているか?
- 引用文献は、汚い場合が本当に多いです。
- よく分からなければ、この形式 (英語文献・AMS, link) or この形式 (日本語文献・土木学会フォーマット, link)。
- もちろん、文献ツールや、google scholar の引用機能を使ってもらって構いません。
- 書式・体裁が整えられていることが重要です。
- 研究に重要な既往研究は引用されているか。
- あと、普通に研究してたら卒論・20件、修論・30件くらいは引用文献数が行く、と、教員は思っています。
チェックリスト (図、表、式)
- 図表に一貫した番号が振られているか? (図1, 図2, ...) (表1, 表2, ...)
- 論文中に出てくる図表は、本文の中で引用され、説明・議論されているか?
- ただただ、「図-1は~である」みたいに図を並べるだけの場合が散見されます。
- 本文で説明・議論されないのであれば、その図表は論文には必要ないと思います。
- 図は、図の下にキャプションが書かれているか?
- 図には、可読できる大きさでラベルが書かれているか?
- この図は何かという情報? (図の上)
- 縦軸、横軸の意味や単位
- 棒グラフや線グラフの各線が何を表しているか?
- 物理的な変数には、単位が書かれているか? (例, Temperature [K], のKの部分。)
- ラベル、小さすぎて読めんことが多い。デフォルト設定は大概小さすぎるので、大きくしましょう。
- 表は、表の上にキャプションが書かれているか?
- 式番号は振られていて、一貫しているか?
- 式の中で使われている変数は一貫しているか?
- 同じ変数を、別の文字で使ってないか?
- 逆に、同じ文字を、別の変数の意味で使ってないか?
- スカラーは小文字・細字・斜体 (a, b, c)、ベクトルは小文字・太字・立体 (a, b, c)、行列は大文字・太字・立体 (A, B, C)
- 変数・ベクトル・行列の定義
- 新しく出てきたときに、その変数・ベクトル・行列が何かを定義する。
- ベクトル・行列は、次元が定義されているか。こんな感じ(link)で、新しく定義するときに次元も定義する。
方法・データ
- 用いたデータは、正しく引用・取得元が記載されているか。バージョンのあるデータの場合、そのバージョンは記載されているか。
マナー・ルール・普通の論文だったら
- 自分の著作物でない図表は、引用して使用しているか?
- 章立てが整えられているか?
- 「結論」の章があり、きちんとまとめられているか(最低1~2頁)。
- 自分の出した研究の結果が、論文の主体となっているか。
ボリューム
- 卒論 30 ページ、修論50ページ程度の内容が目安。
研究室の研究活動の中で詰めていくこと (非チェック項目)
- 科学的に「適切な」解析・解釈をしているか。
説明: 何故こんな細かい(?)ルールがあるのか
色々書いてますが、これはScientific Writingのルールです。細かいんじゃなくて、当たり前に求められることです。
何故こんなルールが必要かというと、科学文書の目的は、「ある研究」を「他の研究者が追試できるように」正しく伝えることだからです。科学の根本は、「原理原則、同じデータで同じ解析をすると、世界中の誰れも同じ結果が得られるか」という再現性にあります。論文は、「あなただけの為のメモ書き」ではないです。「他の人でも理解できて、追試できる」ような情報を提供するのが目的であり、その技術を身に着けるのも、卒業研究・修士研究の目的です。
例えば、数式が書かれていても、変数の意味が分からなければ、解釈できません。図があっても、何の変数・結果が示されているか分からなければ、解釈できません。単位が分からなければ、値の妥当性は分かりません。引用文献が無ければ、論文の科学の中の位置づけが分かりません。
繰り返しますが、すべからく著作物は、「読み手のために」書くものです。「自分自身が理解できればそれで良い」という思考は捨ててください。時制、句読点、式番号、図表番号の一貫性などは、読み手のストレスを極力下げるためのマナーです。他人の著作物を読むのは、とても大変なことなのです。
説明: 「論文」と「科学技術文書」の違い
最後のところは難しいです。科学技術文書は、「こんな実験をしたら、こんな結果が出た」といった事を並べるだけでもOKだったりします。
一方で、論文ではだめで、「出てきた結果を解釈・咀嚼して、自分の知見を加えて示す」といった態度が求められます。料理で言えば、「科学技術文書は、レシピと料理の結果」だけ示されればいいですが、論文ではその情報に加えて「なんでその調理(実験)をしたのか、どんな料理が出来たのか (結果)、どんな味だったのか (議論・解釈)」など、自分なりに情報の取捨選択をして、大事な情報を伝えるという思考が大事になります。
上で書いた、「本文で説明・議論されないのであれば、その図表は論文には必要ない」というのは、このためです(科学技術文書だとOKかもしれません)。
個人的には、長々と書かれた論文は、著者が情報集約・抽出を怠っていると思います。一部で、「卒論・修論は長ければ長いほど良い」という風潮があるかもしれませんが、それは間違いです。
論文の基本は3C、Clear (明確に)、Collect (正確に)、Concise (簡潔に)、です。もちろん、伝えるべき情報が多ければ、自然と長くなります。長くなることを一概に否定している訳ではないです。