何故、この記事を書こうと思ったか
大学や研究所のパーマネントポジション獲得を1つの目標にしている研究者も多いと思います。
この記事を書こうと思ったのは、若い研究者と話していて、「パーマネントポジション獲得に必要だと思っている能力」と「求められている能力」にミスマッチがある様に思うことがあったからです。小槻自身、まだまだ経験不足で全てを知っているわけではありません。ポジションの獲得には運が左右することも多いです。とはいえ、確率を少しでも上げることは出来ると思います。
キャリアは自分自身の仮説演繹で築き上げていくものなので、以下の内容は1つの意見として聞いてください。なお、以下の記述は天才には適用されません。とはいえ、小槻自身も含め、多くの人間は、普通の人間です。
求められる能力
想定するポジションですが、若手(~35歳)と想定しています。僕は企業の話は分からないので、大学の助教や准教授か、研究所のパーマネントポジションを想定します。
パーマネントポジションは、一度雇うと後戻りが出来ないので、組織も丁寧に候補者を評価することになります。下記辺りなどが、大事な要素になりそうです。
- 研究業績: 研究分野での重要な貢献や、ピアレビューされた研究論文の出版。
- 専門知識と経験: 研究の専門分野についての理解と研究経験。特定分野での博士号取得や、ポスドク経験など。
- コミットメント: 組織/プロジェクトのミッションを理解し、自分の能力・経験で組織/プロジェクトに価値を付加できるか。
- ビジョン: 5~10年の方向性として、自分が成し遂げたいことは何か。そのためにどんなキャリアを歩み、どんな研究費を獲得してきたか。
- ネットワーキング: 国内外の研究者と関係を築けるか。自らのビジョンの実現のために共同研究者を持てるか。組織が求める共同研究を完遂できるか。
- 教育能力: 学生を指導する能力。授業を担える能力。
- プロジェクトマネジメント: 組織/プロジェクトの研究マネジメントが出来るか。予算管理、進捗、メンバーの指導、報告書作成、学会発表ができるか。
- プレゼンテーション: 研究の価値を他者に説明できるか。研究費の獲得能力とも近い。
- 言語能力: 研究成果を英語で発表したり、国際的な研究チームと連携する能力日本の大学や研究機関では、日本語と英語の両方でのコミュニケーション能力が求められる。特に、administrativeな仕事は日本語でしかできない場合あり。
もっと普遍的な言葉で書くと、この辺になるのだと思います。
- 責任感
- 協調性とメンターシップ
- リーダーシップ・主体性
- 独創性と研究能力
- 自らの客観視できる力
各要素のweightは、ポジションによって異なると思います。大学であれば、組織のプロジェクトを完遂する能力よりも、自分自身で研究を立案・実施できる個としての力や、教育力が求められるでしょう。一方、研究所であれば、組織のミッションを満たせる能力が重視されると思います。
どうやって評価されるのか
上で書かれた能力のうち、応募書類で分かることは限られています。人間性の確認は、普段の学会活動やプロジェクトミーティングでimplicitに見られています。もし面識がなければ、現在の上長へのヒアリングは確実に行われると思った方が良いです。パーマネントポジションとは、組織にとっては数十年雇用を続ける覚悟も必要なので、慎重に検討は行われます。
時々感じる誤解
- 守破離: いきなり、自分のオリジナリティを求めすぎている。それよりも、今与えられたポジションで自分のミッションを全うし(守)、その中で自分のオリジナリティを出し(破)、新しい研究に昇華させていった方が良い(離)。パーマネントポジションとはいえ、「あなたがやりたい事をなんでもやって良いですよ」なんて場所なんてない。繰り返す通り、大学であれ研究所であれ、組織にはミッションがある。そのミッションを読み取り、自分のやりたい事とのWin-Winを築けないといけない。
- ポジションをとってからやる: 例えば、研究マネジメントや後輩の指導などは、ポスドクの仕事ではないと思うかもしれない。だけど、この辺の業務をきちんと回せる力は、パーマネントポジションの獲得に必須です。「ポジションに着いたら頑張ります」で、納得してくれる人はいない。ポジションが上がると、研究員の時代よりも責任が増え、自分自身に使える時間は減る。研究員の時に出来ないことが、ポジションを取って出来るとは思えない。
- 自分の研究に専念したい: 気持ちは分かる。けど、多くの凡人にとって、一人で出きることなんて限られているし、視野狭窄に陥ってどんどんとニッチな研究に落ちて行ってしまう。自分のオリジナリティを持ちつつ、周りを巻き込んで大きくしていく姿勢は見たいもの。
- 論文を書いていればいい: そんな訳ない。求められる能力の中で、技術力・科学力は必要条件の1部でしかない。とはいえ、論文を書いていないと、そもそも候補に上がらない。
- 学会・プロジェクト会合の発表の軽視: ある人間の評判は、その人間の行動の積み重ねである。それぞれの機会でベストを尽くさない人間に、チャンスは回ってこない。誰だって、頑張ってる人を応援したい。あと、聴衆を置いてけぼりにする発表を繰り返すのは、印象を悪くします。
補足: 既にポジションを獲得した方から「この記事を見ました」というコメントを得るんですが、一番共感を得るのは、「守破離」のところです。「組織のミッション」と「自分が築き上げたい世界」の両者を繋ぐwin-win なアイデアを出せることは大事だと思うし、逆にそれさえあれば、移り行く社会・組織の変化にも対応できると思います。この辺の柔軟さは、外部資金の獲得にも似たところがあります。こちらでも、「自分が好奇心でやりたいです!」というテーマに、それだけの理由で出資してくれるfunderは中々いません。「社会・学術において求められていること」と「自分が進めたい研究」の両者を繋ぐ提案をしていく必要がります。結局、「柔軟さ」が大事だと言っています。