AI要約版

ムーンショットプロジェクトのPMとして多くのPIと仕事をする中で、「仕事ができる」とは何かを考えてきた。自身の仕事観は、三好先生から言われた「学生気分は抜けましたか」という言葉、大学時代の友人から学んだ「仕事を通じて責任を引き受け、マーケットバリューを高める」という考え方、そして「仕事が面白くないと言う人は、その人自身が面白くない」という言葉によって形づくられてきた。

仕事は、単に時間を使ったり知識を持ったりすることではなく、責任を引き受け、成果を生み出すことで評価される。また、依頼された仕事や未知の業務は、自分では選ばない経験に出会う「強制エンカウント」であり、成長や人間関係の形成につながる。仕事を面白くできるかどうかも自分次第であり、楽しんで取り組む姿勢は、学びと良い協働関係を生む。

本稿では、「仕事ができる」とは、相手が求める価値を理解し、その期待を超えることだと定義する。そのために重要なのは、次の七つである。

  1. 自ら仕事を定義し、最後までやり切る
  2. 期限・精度・優先順位などの期待値を事前に合わせる
  3. 依頼の目的を理解し、質の高い成果物を出す
  4. 中間段階で認識を確認し、方向修正する
  5. 悪い情報やリスクを早く共有する
  6. 進捗を適切に可視化し、相手を不安にさせない
  7. 周囲を巻き込み、仕事を仕組みとして残す

これらは才能ではなく、意識と訓練によって身につけられる。仕事ができると信頼されれば、良い情報や人、挑戦的な仕事が集まり、裁量や意思決定への関与も増える。その結果、さらに経験と能力が高まり、マーケットバリューが上がるというポジティブフィードバックが生まれる。

仕事ができる = 相手の期待を超える

ムーンショットプロジェクトのPMを務めるようになって、30名を超えるPIの先生方と付き合っている。定期的にミーティングをしたり、打ち合わせをしたりするのだが、このプロジェクトマネジメントをやっていて感じるのは、これらの先生方は本当に仕事ができるということである。この「仕事ができる」というのは抽象的な概念で、それが何を指すのか、これまでよく分かっていなかったのだが、これを機会に考えてみたい。

小槻自身の「仕事」に対する意識変革のきっかけ

その前提として、小槻自身の仕事に対する考え方を変えるきっかけとなった出来事を、いくつか紹介したい。

1. 学生気分は抜けましたか? by 三好先生

最初は、理研に着任して1か月ぐらいの頃、三好先生との面談で言われた「学生気分は抜けましたか」という言葉である。特に他意はないのだと思うが、この一言には、自分自身、ハッとするところがあった。それは、もう自分自身は学生ではなく、給与をもらって仕事をしている立場だという、当たり前の事実である。

では、給与をもらって仕事をするということはどういうことか。それは、成果に対してコミットすることだというふうに考えた。頑張っていても、どれだけ時間を使っていても、結局、成果を上げられていないのであれば、それはプロフェッショナルではないと思ったのである。そういったところから、プロの仕事というものは成果を出すことだ、というふうに考えるようになった。

あと、三好先生は、「依頼された仕事は断らないこと」というアドバイアスもよくしてくれた。講演依頼、学会運営、論文査読、研究相談などなどである。その当時は、若者として、依頼された仕事を断らないのが大事なのだと思っていた。また、仕事をしっかり引き受けることによって、業界内で評価を獲得していくのだというふうに思っていた。今になってみれば、依頼された仕事というのは、ある種の強制エンカウントで、普段の自分の中から生まれてこないタスクを行うため、それによって得られる経験値が多いのだと思う。とかく研究者というものは、目の前の研究に没頭しがちだが、自らの見識、経験を高めていくために、こういった強制エンカウントをきちんとこなしていくのも大事だと思う。

2. 責任をTakeして自分のマーケットバリューを上げる? by 岡本くん

次は、大学時代の友人が言っていた、「仕事を使って責任をTakeして自分のマーケットバリューを上げる」という考え方である。彼は金融系で働いていたのだが、仕事は自分で取りに行って、それによって自分を常に忙しくしておく。それによって、自分自身のマーケットバリューを上げるのだと言っていた。ここでいうマーケットバリューとは、組織内での評価だけではなく、仮に組織を離れたとしても、自分が評価されるような実力、能力、経験を蓄積することだ、と言っていた。

この「マーケットバリューを上げる」という考え方は、研究者にも非常に有益だと思った。とかく、目の前の研究だけをすればいいと思いがちだが、研究者もいずれ、組織を離れたり、自分の研究室を立ち上げたり、共同研究者との共同研究や企業とのやり取りをしていくことになる。そういったときに評価されるのは、結局は自分自身のマーケットバリューである。では、マーケットバリューを上げるためにはどうすればいいかというと、まずはいろいろな経験をして、そこから学ぶことだと思う。そんな考えから、研究員のときには、なるべく自分で仕事を取りに行って、常に自分を忙しくしておこうと心がけた。

自分の経験値を稼ぐ上で一番簡単なことは、責任を引き受けることである。責任を引き受けるとは、その仕事の成果にコミットすることであり、失敗したときに自らが責任を負うということである。この経験から学んだことは多い。例えば、気象庁からの予報業務許可の取得、国内・国際研究会のローカルオーガナイザー、企業との共同研究、地球科学以外の分野の研究者との共同研究などである。これらの仕事は自ら責任をTakeして担うことで、より多くの経験値を獲得することができる。

自分で責任をTakeして仕事を行うようになると、同時に、世の中にはネガティブな意見を述べたり、批判的なことを言ったりするだけで、受け身であったり行動しない人がある一定程度いるということにも気がつく。彼ら・彼女らは批評家としては優秀かもしれないが、結局、仕事というものは、どれだけ多くのことを知っているかではなく、実際に何を生み出したか、どのような成果物を残したかによって評価される。その観点でいうと、失敗してもいいから、何か責任をTakeして進めていくというのは、一人の人間としての成長という意味でも、非常に有益だと思う。

3. 仕事が面白くないといってるやつは、そいつが面白くないのだ by 恵美くん

最後は、これも大学時代の友人が言っていた、「仕事が面白くないと言っているやつは、そいつが面白くないのだ」という、重工系で働く友人との会話の一コマである。似たようなことは、別の人も言っている。例えば、任天堂の元社長・岩田聡氏は、仕事の面白さは、その人が「何を楽しめるか」という好奇心の広さに左右される、といったことを述べている (小槻の意訳)。曰く、「考え方によっては、仕事は面白くない事だらけ。でも、面白さを見つけることの面白さに目覚めると、ほとんど何でも面白い。この差がでかい。」

この考えに立つと、ある仕事を任されたときに、それを楽しめるかどうかというのは、自分次第だということが分かってくる。つまらないと思うと取り組みもつまらなくなるし、面白いと思うと取り組みも面白くなり、学びが生まれてくる。仕事とは、そのようなものである。

仕事を楽しむということは、そのときの学びだけではなく、人間関係の構築という意味でも、後々役に立ってくる。誰しもそうだと思うが、嫌々仕事をしている人との仕事というのは、楽しいものではない。一方で、「せっかくやるんだったら、楽しんでやりましょう」というスタンスの人であれば、良い人間関係を構築できると思う。例えば、自分自身が研究所にいたときに一緒に業務タスクを担った平田さんは、今は国立大学のURAになって活躍している。自分自身が起業や特許などを考えたときに、セカンドオピニオンとして今でも相談させてもらっている。そういった人間関係の幅を広げられるというのも、仕事を通してだからこそだと思う。

「仕事ができる」とは「相手の期待値を超える」こと

では、本題の「仕事ができる」について。簡潔に言うと、仕事ができるとは、相手の期待値を超えることだと思う。ここで、「相手」というのはまず大事なポイントである。仕事として価値を持つためには、自分が良いと思うだけではなく、誰にどのような価値を届けるのかを考える必要がある。

実際に、小槻自身が「この人、仕事ができるわ」と思った経験をカテゴリー化すると、以下の点になってくると思う。

1.自走できる: 相手からの指示やタスクを待つのではなく、自分からタスクや仕事を定義し、それに向かって実行できる。分からないことがあれば、自分なりに調査し、自分なりの仮説 (first guess)を持った上で打ち合わせを行う。また、最終的に仕事を終わらせる責任感、いわばラストマンシップを有している。

2.期待値コントロール: 実際に何かに取りかかる前に、相手との期待値をコントロールする。向かっている方向はこれで合っているのか、スケジュール的にいつまでに必要なのか、どのような精度が求められているのか、どのような優先順位なのか、といったことの言語化を自ら担ってくれる。

3.目的を読み、質の高い成果物を出す: 出てくる成果物の質が高い。まず第一に相手の中に、仕事の成果物の質に対するモラルや基準があるからこそ起こることだと思う。同時に、もしスケジュールに間に合わなければ、事前に間に合わなさそうである旨などを共有してくれるので、こちらとしてもトラブルが減る。第二に、依頼の背景にある目的まで理解しようとする。例えば、書類作成であれば、誰に向けた資料で、何がポイントで、その背景にどのような流れがあるのか、といったことである。

4. ミドルチェックポイントと方向修正: 最終的な成果物を出す前に、方向性はこれで合っているか、想定しているものと違っていないかという認識のズレを共有し、それに基づいて方向を修正してくれる。そのため、依頼している側としても、出てくる成果物のイメージがつきやすい。また、担い手としても仕事の手戻りが減るという点で、メリットがある。

5. 特に悪い情報の報連相報連相は社会人の基本になるのだが、特に悪い情報の報連相が早い。大きなトラブルになる前に、リスクとして顕在化した時点で、それを共有してくれる。例えば、「念のため、これを共有しておこうと思います」とか、「もしかしたら、これはトラブル化するかもしれません」といったことを共有してくれるため、事前に手を打つことができる。基本的には、トラブルが起こる前に手を打った方が、その対応にかかる労力は10分の1以下で済むので、こういった危険の察知能力や報連相の能力も、非常にありがたい。

6. Visibilityが高く、見られる化がうまい: 活動が見えやすい。これは頻繁にMTGを求めるとかそういったものではなく、大事なポイントでinputがあったり、ミドルチェックポイントが設定されているので、「今、このような方向性に向かって、これくらいの進捗状況なんだろうな」といった活動に対するvisibility が高いのである。

7. チームの活動度を高める巻き込みと仕組み化: 自分の担当だけを終わらせるのではなく、周囲の人を巻き込んだりチーム形成を行うことで、チームとしての活動度を高める。また仕事を仕組みとして残すため、次に誰かが同じ仕事をするときに、より簡単にできるようにする。自分がいなければ回らない状態を作るのではなく、自分がいなくても回る状態を作る。これは研究室運営やプロジェクトマネジメントでは、かなり重要である。

この辺りのポイントは、これらの能力はいずれも、才能ではなく訓練によって身につけ得るスキルであるという点である。意識さえすれば、これらの点はどれも獲得できる。つまり、仕事ができると思われるためのスキルは、意識と取り組みによって、誰でも獲得できるということである。

注意したいのは、「期待値を超える」とは、単に余計に働くことではない。期待されているものを正確に理解する、リスクを早めに共有する、途中で認識を合わせる、手戻りを減らすといったことを通して、相手の負担・不確実性を減らし、自分の仕事の進捗を適切に可視化する力、を指している。

「仕事ができる」ことのメリット

では、仕事ができると思われることによって、どのようなメリットがあるのだろうか。これは単純に評価が上がるというわけではなく、自分自身をより成長させるという意味でも、いくつかメリットがある。

1. より多くの良い情報・人に出会える: これも人の常だが、例えば、仕事ができる人に誰かを紹介しようとするとき、紹介する側も、やはり仕事ができると思う人を選ぶ。誰かに仕事ができると思われることによって、より多くのチャンスに出会える可能性が上がる。基本的に、仕事は小さなポジティブフィードバックの積み重ねによって成り立っており、一つ一つの可能性やチャンス、確率を上げることが、積もり積もれば大きな成果になる。

2. 良い仕事に出会えるどこまでいっても、基本的には、多くの人にはその上司が存在する。その上司がどのように仕事を振っているかを考えると、仕事ができる人には、より困難で挑戦しがいのあるテーマやタスクを振ると思う。基本的に仕事というものは、それを通して新しい経験をしたり、成長したりするために活用すると楽しめるものである。その観点で、より困難だったり、挑戦的だったりする仕事というのは、自分自身を成長させる糧になる。

3. 裁量が増え、重要な意思決定に関わる機会が増える仕事ができると思われると、細かな指示や確認を受けずに自分の判断で進められる範囲が広がり、仕事が進めやすくなる。研究者としては、任された仕事をこなす立場から、何をするべきかを決める立場に移っていくことで、将来PIとして独立する準備ができる。また、信頼を重ねると、方針を決める段階から相談されるようになり、組織やプロジェクトに反映できる範囲が広がり、自分の提案が実現しやすくなる。

まとめ

本稿では、「仕事ができる」ということについて考えてみた。「相手に仕事ができると思われる」ことは、「相手の期待値を超える」ことであり、それには7つのポイントがあった。

これは、単純に「評価される人になろう」と言っているわけではない。その本質は、仕事ができると信頼されることで、より難しい仕事や良い仲間が集まり、それがさらに自分を成長させる、というポジティブフィードバックにある。その第一歩は、自ら仕事をTakeして成長し、自らのマーケットバリューを挙げていくことである。